保育園での出来事1

せんせい!絵を描いて~!

寄稿者DATA
現役保育士スプリ先生
スプリ先生
保育士を経て、現在では園長に就任
園長に就任し、めっきり子どもと遊びこむ時間がなくなってしまい、本音は寂しいのですが、これも役割分担だと自分に言い聞かせ頑張ってます。

おうちの人のお迎えが遅くなる延長保育の子ども達と遊ぶとき、僕は保育室でお絵かきをしてよく遊びます。自由に紙(不要紙ですが)を使って、もちろんそれぞれの好きな絵を描いていいのです。色鉛筆とはさみ、セロハンテープも出来るだけ自由に使えるように100円ショップでまとめ買いして置いてあるので、一人ひとりが自分の思いのまま好きな製作に集中出来る・・・・はずなのですが、それがちょっと違うんです・・・

紙をもらうやいなや、ドタドタと僕の前に子どもの列が出来ます。順番の取り合いで小競り合いも起こります。何が始まるかというと「せんせい!ピカチュウ書いて!」「○○ちゃん(←僕のことです) 次、ぼくクワガタ書いて~!」 そう、お絵かきといっても子ども達のお絵かきというよりも僕のお絵かきなんです。

自分が思ったとおり、感じたとおり、想像を膨らませ、集中して自由に描くこと。保育園での幼児にふさわしいとされるお絵かきに対するイメージではないでしょうか? もちろん正論です。でもこれはこれでとても興味深い展開になります。

ご注文どおりの絵をご希望どおりの色鉛筆で描くのですが、僕が書き始めると注文主はもちろんのこと、後ろで順番を待っている子ども達も僕の手元に神経を集中させます。後ろの方からでは見えにくいからと僕の背後にも子ども達が張り付きます。どんどんみんなの顔が絵を描いている手先に近寄ってきて手元が暗くなったり、肩にもたれ掛かってきて、とてもまともに書けたものではないのですが、いくら少し離れるように頼んでも手先を見ることだけに全神経が入っているのか、結局こちらがあきらめてその試練のなかで絵を描くことになるわけです。

とくにポケモンなんかは何も見ずには僕にも書けないので、延長保育に使うお部屋には何冊かのポケモンの本が置いてあり、自分が書いて欲しいポケモンの載っているページを指して注文してもらうことにしているのですが、見ている外野がうるさいうるさい、「そこ・・線が一本たりないよ」「耳そんなに大きくないんじゃない?」。年長ぐらいになると厳しい指摘が飛んできます。それでも一応大人の描く絵に関心をしながら「どうしてそんなに絵が上手なの」とお褒めの言葉を頂きながら真剣になってる私なのです。

子ども達は本当によく見てます。夏になると季節ものでカブトムシやクワガタの絵に人気が出るのですが、その手の絵にはちょっと自信がある私なので、気持ちの良いペースで書き上げていくことが出来るのですが、それでも順番を待ちきれない子どもはある日自分で書いてみることに挑戦しだすのです。中には「顔だけ書いて」とか「線は自分で書くから書かないで」と言った注文も出てくるようになります。今度はそれに自分で色を塗ったり、はさみで切ってバッチにしたり・・・

子どもが絵をプレゼントしてくれることがあるのですが、そのなかには僕の絵の影響を受けていると思われるものがよくあります。僕がよくするように、実際には本物や図鑑では見落としてしまいそうな特徴を大げさに表現してしまうところをみると、僕の書いているところをその子がいかに細かいところまで見ていたかと関心をしてしまいます。

さらにはその子のクラスにいる延長保育ではない子ども達までその影響を受けているのは、きっとその子が自信を持ってその絵を自分のものとしてクラスで書いていたことが想像出来ます。 何度も言いますが、これは実際に本物を感じて、あるいは想像を膨らませて自分の創造力で描いたものとは違うんだと思います。でも自分ではまだ書けないような表現を、うまく描ける大人の鉛筆の使い方、線の描き方などに感心し、神経を集中して取り入れるといったことは積極的にしていいと思うし、それを自分なりに大きな影響として反映させられることは子どもの素直な模倣力でもあると思います。

ただしこれを勘違いして・・・たとえば黒板に注目させ見本の絵をいっせいに描かせるなど・・これはいただけません。あくまでも子ども側の要求から出たと言うところが最終的には生きてくるのですから。

ところで何年か前、ちょっと楽をしようと、どうせ何枚も同じ絵を描くならと思って念入りに描いた絵をコピーして配ったことがあります。それでその日はゆっくりと、みんなが色を塗っているところでも見ようと思ったのですが・・・

やはり絵を書いてくれと列が出来てしまいました。何とそのコピーを見て白紙に書いてほしいと言うのです。そのときこの子達が同じ絵でも完成したものではなく、その過程にこそ大きな関心があることを改めて教えられたのです。

僕の赤いプラスチックの工具箱。延長保育用のはさみやテープが一杯入っているんです。
K先生、いつも工具箱置かせてくれてありがとう!

たのまな
保育士バンク
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著作・制作など
現役保育士つくしんぼ先生
なかのゆうと
監修・原作・執筆・編集
著書に『先輩が教えてくれる! 新人保育士のきほん(翔泳社)』、『保育士になろう!(青弓社)』。元私立幼稚園教諭。現役保育士や児童福祉施設などに勤務する方を取材し、保育現場のリアルを発信します。
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